九回表、ショート神山(かみやま)の代打で出た白城(しらき)はレフトへ入った。本人いわく、プロの強打者はレフトが多い!だそうだ。そして、レフトの小山田(おやまだ)がショートへ移る。

 

白城(しらき)の同点満塁ホームランで、試合は16対16。梯(かけはし)高校の攻撃は、六番の三好(みよし)から始まる。

「いっくぜー!三好(みよし)」

 

勢いよく投げた一奥(いちおく)は、三好(みよし)の予想外の構えに驚きながら前へダッシュした。

 

「セーフティかよ!」

 

完全に出遅れた一奥(いちおく)。三塁線に転がったボールを懸命に追うが、三好(みよし)の足がグングン加速する。

 

(バントならタイミングは関係ないんだよ!一奥(いちおく))

 

「あのヤロウ、ホームラン捨てやがった!」

「任せろ一奥(いちおく)!」

 

サードの村石(むらいし)が猛然とダッシュ。だが村石(むらいし)は元々キャッチャーの選手。バッティングを買われての起用だけに、サードの守備には慣れていない。それでも一奥(いちおく)は足を止め、村石(むらいし)にボールを任せた。

 

「うりゃー!」

「セーフ」

 

「くっそー!」

 

セーフになった三好(みよし)とサード村石(むらいし)が同時に悔しがった。ファーストの杉浦(すぎうら)は、三好(みよし)の気持ちがわかった。

 

「今日の所は、試合の為に一奥(いちおく)を認めたのか」

「あ?まぁ、悔しいけど今の俺には打てねぇ球だ。でも、試合には負けたくねぇ」

 

「フン。だがお前、悪くはないぞ」

 

杉浦(すぎうら)が、マウンドへ戻った一奥(いちおく)へ返球。そこへ、タイムをかけた遠矢(とうや)が走って来た。

 

「一奥(いちおく)、九条(くじょう)以外はまだ見切れてない。だから、次の六川(ろくがわ)も狙ってくるかもしれないよ」

「どうやらそのようだな。いいぜ、今度はアウトにしてやる!」

 

すると遠矢(とうや)は、セカンドの仟(かしら)を見て閃いたように頷いた。それに気づいた一奥(いちおく)は、(まさかな……)と思った。

 

「一奥(いちおく)」
「本気か?遠矢(とうや)!」

 

「やっぱりそう思う?う~ん仟(かしら)は怒るかな?」

「失敗すれば、怒ると思うけどな……」

 

「そうだね。じゃ、頼むよ!」

「結局やるのかよ。……まぁいいけどさ」

 

遠矢(とうや)は仟(かしら)との対決で、リードをパクった。いいプレーのマネが得意な遠矢(とうや)は、嬉しそうにホームへ戻っていった。

 

「さぁ来い!一奥(いちおく)」

「いい気合いだぜ!六川(ろくがわ)。打てるもんなら……打ってみな!」

「なにっ?」

 

投球と同時にセーフティバントの構えをした六川(ろくがわ)は、思わず声を出した。山なりのスローボールを投げた一奥(いちおく)は、二塁ベースを目指す。

 

その姿を見た六川(ろくがわ)は、ニヤリと笑った。

 

「バカめ!マウンドががら空きだぜ!」

 

ピッチャー正面に転がす六川(ろくがわ)。しかしボールが転がったのを確認した瞬間、顔色が変わった。

 

「キャッチャーだとぉ!」

「一奥(いちおく)!しゃがめー!」

 

遠矢(とうや)がすばやく二塁へ送球。

 

「うおっ!」

 

しゃがんだ一奥(いちおく)が驚いた瞬間、ショート小山田(おやまだ)が捕ろうとしたボールが消えた。

ボールは、グローブを出してしまった一奥(いちおく)が持っていた。すぐに小山田(おやまだ)が異変に気づく。

 

「一奥(いちおく)君、早く!」

 

だが、「あ!」と叫んだ一奥(いちおく)は、グローブにボールが挟まっている事に気づいた。

 

一奥(いちおく)がもたつく間に、一塁ランナーの三好(みよし)はセーフのタイミングになってしまった。

 

ショートの小山田(おやまだ)は、「くっ、ファースト、ファースト!」と一奥(いちおく)に叫ぶが、グローブに挟まったボールがまだ取れない。

 

「くっそぉー!」

 

ボールを外す事を諦めた一奥(いちおく)は、グローブごとオーバースローでファーストの杉浦(すぎうら)に投げつけた。

 

杉浦(すぎうら)はファーストミットで取らず、両腕で一奥(いちおく)のグローブを抱え込んだ。

 

(よし!アウトだ)

「セーフ」

「なにぃ?」

 

間に合ったと喜んだファーストの杉浦(すぎうら)が驚く。タイミングは完全にアウトだった。だが審判はセーフ。

 

すると杉浦(すぎうら)の目に、一塁線方向へ走る遠矢(とうや)の姿が映った。

 

ボールは、一奥(いちおく)がグローブごと投げた勢いで上に飛び出し、一塁ベンチ方向へ転がっていた。それを見た一塁ランナーの三好(みよし)は、一気に三塁を狙う。

 

「遠矢(とうや)!サードだ!」

 

ファーストの杉浦(すぎうら)が、一奥(いちおく)のグローブに怒りをぶつけるように投げ捨てながら叫んだ。

 

素早くボールを拾った遠矢(とうや)のストライク送球が、サード村石(むらいし)のグローブに収まる。

 

「セーフ」

 

「よっしゃー!」
「六川(ろくがわ)ー!ヒヤヒヤさせんじゃねぇ!」
「一奥(いちおく)!ナイスプレー!」

 

一奥(いちおく)の珍プレーに、盛り上がる梯(かけはし)ベンチ。一奥(いちおく)はズボンの砂を手ではらい、杉浦(すぎうら)の下へ歩き出した。

 

「遠矢(とうや)の奴、スゲェ球投げやがった。つい手がでちまった……杉浦(すぎうら)先輩!俺のグローブ……って、あれ?」

 

一奥(いちおく)が、グローブを持たない杉浦(すぎうら)に気づく。目が合った二人の間に僅かな沈黙が訪れ、思い出したかのように杉浦(すぎうら)が「おぉー!」と声を上げた。

 

「おぉー!じゃねぇよ。俺のグローブどこ行ったの?」

「知らん……」
「はぁ?」

 

困った顔の一奥(いちおく)に、側にいたセカンドの仟(かしら)が声をかけた。

 

「一奥(いちおく)さん……あそこです」

「仟(かしら)?えー?」

 

仟がありえないといった表情で指差した場所に、一奥(いちおく)は驚いた。それは、ライト側にある道具倉庫だった。

 

怒った杉浦(すぎうら)が思わず投げた一奥(いちおく)のグローブは、推定飛距離50メートルのファールフェンス越え倉庫直撃のビッグスローだった。

 

走り出した一奥(いちおく)はヒョイっとフェンスを越え、グローブを拾ってファースト杉浦(すぎうら)の下へ戻ってきた。

 

「杉浦(すぎうら)先輩……」

「な、なんだ……」

 

「ありえねぇーだろ!」

「ガハハ!よく飛んだな」

 

「ったく……」

 

呆れた一奥(いちおく)がマウンドへ戻ると、遠矢(とうや)がボールを両手で回すようにキュキュッと握っていた。その視線は、スコアボードに向けられていた。

 

「遠矢(とうや)、スコアボード見て計算でもしてたのか?この回、何点取られそうだ?」

「もちろんゼロだよ。ただね……」

 

「ただ?」

「九条(くじょう)に回す事を、彼らは最優先に考えてるね」

 

「九条(くじょう)か。もし回ればあいつらの勝ち。回らなければ、西島(おれたち)の勝ちか……」

「どうする?一奥(いちおく)。九条(くじょう)に回すかい?」

 

遠矢(とうや)は、微笑みながら言った。

 

「そうだな……。野球バカが見たい方になるんじゃねぇかな?」

 

そう言った一奥(いちおく)が見上げた先は、ライトスタンド後方にそびえ立つ校舎の屋上だった。

 

そこに立っていたのは、西島(にしじま)理事長だった。

 

「なるほどね。ほいっ、ボール」

「っと。じゃあ遠矢(とうや)、俺たちも見てみるか」

 

「そうだね。もう僕の計算を越えてるし、それで行こう」

 

遠矢(とうや)が振り返ると、バッターボックスにはすでに八番の四本(よつもと)が立っていた。

 

(この回に限っては、スクイズも考えられる。一塁ランナーのみを走らせるセーフティも……やっぱりやるしかないかな)

 

再び遠矢(とうや)が振り返る。すると、センターの要(かなめ)をマウンドへ呼んだ。

 

「どうしたの?」

「ストップストップ!要(かなめ)、そこでいいよ」

「了解しましたぁ!」

 

要(かなめ)は、マウンドの右斜め後方に立った。しかし、遠矢(とうや)の大胆なシフトはこれだけではなかった。

 

「仟(かしら)!前、前」

「私もですか?」

 

仟(かしら)は、要(かなめ)と反対方向に位置した。さらに遠矢(とうや)はショートの小山田(おやまだ)を二塁ベース付近へ移動させ、レフトの白城(しらき)とライトの鶴岡(つるおか)を、三遊間後方と一・二塁間後方に、それぞれ移動させた。

 

(一奥(いちおく)のストレートなら、打てば先っぽかつまる。外野には行かない。これでいい……)

 

「遠矢(とうや)、スゲェシフトだな」

「まだだよ?一奥(いちおく)」

 

「へ?」

 

ホームへ戻った遠矢(とうや)のサインを一奥(いちおく)が目にする。それは、敬遠のサインだった。

スポンサーリンク

土壇場でのアクシデント

八番四本(よつもと)を歩かせ、場面はノーアウト満塁。超前進守備の西島(せいとう)ナインが迎えるは、九番ピッチャーの松原(まつばら)。

 

ネクストから様子を見ていた松原(まつばら)は、打席に入るのをためらっていた。

 

(これでは、どうする事も出来ない!下手を打てばトリプルプレー。バントをしてもダブルプレー……)

 

迷った松原(まつばら)の選択は、見逃し三振。後続に託し、悔しそうにベンチへ歩き出した。

 

「くそっ」

 

そこへ、ネクストの一番五十嵐(いがらし)が来た。

 

「松原(まつばら)、いい判断だった。後は任せろ!」

「あぁ」

 

そして、五十嵐(いがらし)が打席に立つ。

 

「おい、キャッチャー。守備位置はこのままでいいのか?」

「自信がありそうだね」

 

「自信がないなら、ここに立ってねぇけどな」

 

初球、五十嵐(いがらし)はバントの構えをした。スクイズを警戒し、仟(かしら)と要(かなめ)がダッシュする。

 

「ストライク」

 

五十嵐(いがらし)はバットを引き、守備陣の動きを確認した。

 

(バントの構えで動いたのは、かわいこちゃんの二人。にしても素早いなぁ……どうする?)

 

五十嵐(いがらし)が迷う中、一奥(いちおく)が二球目を投げた。

 

(インコース!それなら……) 「フルスイングだぁ!」

 

五十嵐(いがらし)が強振!しかしタイミングが合わず、「くっ……」とつまらされた。打球はファースト後方のファールフライ。

 

ファーストの杉浦(すぎうら)とライトの鶴岡(つるおか)が打球を追う。杉浦(すぎうら)が「俺だ!」と声をかけ、捕球体勢に入ったその時だった。

 

「おぉ?」

 

バックで追っていた杉浦(すぎうら)は、ドスーンと尻もちをついた。だか打球は座ったままキャッチした。

 

(まさか転ぶとは。だがボールは捕った。危なかったぞ)

 

杉浦(すぎうら)がファーストミットに収まったボールにニヤついた瞬間だった。

 

「バックホームだ!」

 

サードの村石(むらいし)が叫んだ。「なにっ?」と、杉浦(すぎうら)は三塁ランナーの三好(みよし)を確認。

 

(もらった!)
と、一直線にホームへ突っ込む三好(みよし)。

 

杉浦(すぎうら)のカバーにいたライトの鶴岡(つるおか)が、座っている杉浦(すぎうら)のファーストミットからボールを掴んだ。

 

「俺が刺す!」 (元エースの肩をナメるな!)

 

鶴岡(つるおか)、懸命のバックホーム。タイミングは微妙。三好(みよし)は足から真っ直ぐホームへスライディングした。

 

(セーフだ!)

 

三好(みよし)と遠矢(とうや)が主審を見上げる。

 

「アウト!チェンジ」

 

「うおぉぉぉ!」
「守ったぜ!」
「これで負けはなくなった!」

 

喜びに西島(せいとう)ベンチが騒ぐ。だが、遠矢(とうや)の様子がおかしい。ミットを外し、左手で右手を押さえていた。すぐに一奥(いちおく)が駆け寄る。

 

「大丈夫か!遠矢(とうや)」

「いてて。ちょっと指を切っただけだよ」

 

タッチにいった際、遠矢(とうや)は三好(みよし)のスパイクで右手の小指を怪我してしまった。

 

「すまん……大丈夫か?」

 

ランナーの三好(みよし)も、遠矢(とうや)を心配した。

 

「プレー中に怪我は付き物だからね。気にしないでよ」

 

すると、紀香(のりか)監督が救急箱を持って遠矢(とうや)の下へ走ってきた。

 

「遠矢(とうや)!見せなさい」

 

左手で傷口を押さえていた遠矢(とうや)が手を離すと、左手は血まみれだった。紀香(のりか)監督はすぐに消毒し、ガーゼで止血に入る。

 

「血が止まるまで、押さえていなさい」

「すみません、監督。ありがとうございます」

 

応急処置も終わり、西島(せいとう)ナインはベンチへ戻った。

 

九回の裏、先頭は七番の小山田(おやまだ)から。小山田(おやまだ)がバッターボックスへ向かおうとしたその時、ネクストの遠矢(とうや)は仟(かしら)に新たなガーゼと包帯を頼んだ。

 

「仟(かしら)、もっときつく巻いて」

「はい」

 

包帯を巻いている間、仟(かしら)は嫌な予感がした。

 

「遠矢(とうや)さん!まさか打席に立つつもりですか?」

「試合が終わったら、病院に行くよ……」
「答えになっていません!」

 

仟(かしら)は怒りながら涙を流した。

 

「仟(かしら)……」

「包帯は巻きます。でも交代して下さい。私たちがサヨナラにしますから」

 

遠矢(とうや)からの返事はない。だが遠矢(とうや)は、マウンドで投球練習をする松原(まつばら)をジッと見ていた。それを見た一奥(いちおく)が、二人の前に立った。

 

「仟(かしら)、遠矢(とうや)を止めても無駄だぜ」

「一奥(いちおく)さん……私にはわかりません。どうして止めないのですか?縫うほどの怪我ですよ?本当なら、すぐに病院に行かないと!」

 

黙っていた紀香(のりか)監督は、わかっていなから様子を見ていた。感情的になった仟(かしら)の頭を、よしよしと要(かなめ)が撫でる。

 

それでも仟(かしら)は納得できない。止血の為に包帯を巻いてはいるが、表情はさえない。すると遠矢(とうや)が呟いた。

 

「この試合は最後まで出たいんだ……頼むよ仟(かしら)」

 

仟は遠矢(とうや)と目を合わせた。一息つくと、無言でまた遠矢(とうや)の包帯を再び巻き始めた。

 

「わかりました。遠矢(とうや)さんは三振してきて下さい。一奥(いちおく)さんが決めますから」

「お、俺か?」

 

仟(かしら)は、自分が遠矢(とうや)の立場でも同じことをしただろうと思った。落ち着きを取り戻した仟(かしら)は、要(かなめ)に「ありがとう」と言う。
すると、一奥(いちおく)が考えるように言った。

 

「なぁ仟(かしら)。俺、松原(まつばら)打てる気しないんだけど……」

「そうですよね……」

 

「だろ?」

 

すると、仟(かしら)の隣に座る要(かなめ)が立ち上がった。

 

「それなら一奥(いちおく)ん。私に回してくれればいいよ?」

 

「そうか!くのいち打法の進化バージョンか!」
「ないない」

 

「ねぇのかよ……」

「でも、仟(かしら)に回せばいいでしょ?」

 

「おぉー!それだ!サヨナラが見えてきたぜ」

 

はしゃぐ一奥(いちおく)と要(かなめ)。しかし仟(かしら)は冷静に答えた。

 

「私も難しいです。それなら繋ぎます」

 

「ちょっと待て!俺まで回すつもりか?」

 

驚いた白城(しらき)だが、次の瞬間やる気になっていた。

 

「まぁいいか。お前らが回せるなら、俺が決めてやる」

「いや白城(しらき)、俺が決める」

 

白城(しらき)が「え?」と杉浦(すぎうら)を見ると、すぐに一奥(いちおく)がツッコんだ。

 

「ちょっと待て。杉浦(すぎうら)先輩」

「うるさいぞ一奥(いちおく)。遠矢(とうや)の怪我は俺のせいだ。借りは返す」

 

「それはそうかもしれないけどさ、絶対に無理なんだよ」

「ん?なんでだ?」

 

「いや……杉浦(すぎうら)先輩に回る前に、ど~考えてもサヨナラになっちゃうんだよ」

 

「なに?ツーアウト満塁の打席は誰だ」

「それが白城(しらき)なんだよ」

 

「ならなんだ!俺はもうこの試合は終わりか?」

 

杉浦(すぎうら)が勢いよく立ち上がる。その迫力に、一奥(いちおく)は一歩下がった。

 

「……だな。だから後は応援……そうだ!小山田(おやまだ)先輩は?」

 

一奥(いちおく)がホームを見ると、小山田(おやまだ)は遠矢(とうや)の治療の時間稼ぎをしていた。現在、カウントはツーツー。

 

すると、得意気な白城(しらき)の声が一奥(いちおく)の耳に入った。

 

「あいつはミートの天才だ。当てるだけなら粘れるさ」

「粘れるって白城(しらき)。お前よりもか?」

 

「まぁな。小山田(あいつ)は真面目で遠慮しがち、さらに照れ屋で大人しいけどな。試合での闘志はスゲェんだよ」

 

「ファール」

 

白城の言う通り、小山田(おやまだ)は必死に食らいついていた。

 

(遠矢(とうや)君は出るつもり。それまでは僕が一球でも……)

(粘るな……だが、なんとしても引き分けにする)

 

小山田(おやまだ)とキャッチャー九条(くじょう)の我慢比べが続いていた。

 

だが、遠矢(とうや)がネクストバッターズサークルへと歩く姿を見た瞬間、小山田(おやまだ)の集中力が切れてしまった。

 

「ストライクバッターアウト!」

 

(くそっ)

 

空振り三振。下を向いた小山田(おやまだ)がベンチへ下がる途中、ずっと見ていたネクストの遠矢(とうや)が側にきた。

「小山田(おやまだ)さん、いい粘りでした。でも僕は三振しないと後が怖いので、先に謝っておきます」

「遠矢(とうや)君……」

 

この時、小山田(おやまだ)は遠矢(とうや)の言葉に違和感を覚えた。

 

(なんとなくだけど……遠矢(とうや)君の目が先を見ている気がした……)

 

ベンチへ戻ると、白城(しらき)が笑顔で小山田(おやまだ)を迎えた。

 

「惜しかったな」

「白城(しらき)……」

 

返事をした小山田(おやまだ)は、振り向いて遠矢(とうや)をジッと見ていた。

 

「あいつは三振だ。俺たちはツーアウトから行く」

 

白城(しらき)の声に、再び小山田(おやまだ)は振り向いた。その瞬間だった。

 

キン「ファール」

 

グラウンドに響いた金属音に、白城(しらき)は眉間にシワを寄せた。ベンチがにわかにざわつく中、叫んだのは仟(かしら)だった。

 

「遠矢(とうや)さん!」

スポンサーリンク