翌日、白城(しらき)・一奥(いちおく)・仟(かしら)の3人は、紀香(のりか)監督の車で名京(めいきょう)高校へやってきた。

 

監視役として、仟(かしら)は同行となった。車から降りた3人に、運転席から紀香(のりか)監督が声をかける。

 

「それじゃ白城(しらき)。帰りに電話するのよ。仟(かしら)、問題児たちをよろしくね」
「はい」

「監督!俺にも一言ないのか?」

 

「一奥(いちおく)に?……そうね、勝負はダメよ!」

「はっ?しねぇよ!」(監督には読まれてるな……)

 

「じゃあ行くわね。私は買い物で忙しいから」

 

紀香(のりか)監督は、車で去っていった。その笑顔に、一奥(いちおく)は苦笑いしていた。

 

「買い物って……ずいぶん楽しそうだったな……」

「おい、一奥(アホおく)。置いてくぞ」

 

「お?ちょっと待ってくれよー!」

 

白城(しらき)と仟(かしら)は、先に歩いていた。一奥(いちおく)はすぐに追いつき、「これが名京(めいきょう)かぁ!」と、公舎や体育館を横目にグラウンドを目指した。

 

優勝最有力候補の名京(めいきょう)高校は、西島(せいとう)高校同様名門である。

 

西島(せいとう)グラウンドも野球専用だが、立派な専用野球場が名京(めいきょう)にもあった。

 

3人がグラウンドへ向かう途中、雨天練習場からは、グラウンドでこれから試合が行われるにもかかわらずボールを打つ音が聞こえた。

 

3人が覗くと、そこでは多くの名京(めいきょう)部員が練習をしていた。マシン打撃からティーバッティング。ブルペンに内野ノック程度の広場と、室内は充実していた。

 

一奥(いちおく)が、嬉しそうに驚く。

 

「おぉー!さすが名門校だな」

 

同じく微笑む仟(かしら)が応える。

 

「西島(ウチ)は、雨天練習場はありませんからね」

 

「仟(かしら)、こいつら補欠かな?」

「多分そうでしょうね。名京(めいきょう)部員は100人以上いますから」

「マジ?」

 

「おい、いいから早く行くぞ!」

 

白城(しらき)は興味がない様子。一奥(いちおく)と仟(かしら)は、走って白城(しらき)に追いつく。そして3人は、名京グラウンドに着いた。

 

「おぉ!観客席があるぞ!スゲェな」

「本当ですね」

 

相変わらず驚く一奥(いちおく)と仟(かしら)。3人がグラウンドの様子を見ると、一塁側に名京(めいきょう)高校。三塁側に川石(かわいし)高校が陣取っていた。

 

3人は、関係者のいないバックネット裏の観客席へ座った。グラウンドでは、川石(かわいし)高校がシートノックをしている。

 

その守備を見て、一奥(いちおく)が口を丸くした。

 

「ほぉ~。なぁ白城(しらき)。お前ら去年川石(かわいし)高校によく勝ったな?」

「お前なぁ、それは俺への嫌がらせか?川石(かわいし)高校はな、ピッチャーで四番の幸崎(こうさき)さんが中心のチームなんだよ」

 

去年、試合早々に白城(しらき)の打球を受けた幸崎(こうさき)は退場し、西島(せいとう)高校は勝ったと言っても過言ではなかった。

 

「そっか。……確かに幸崎(あいつ)はやるぜ!スゲェバッターだ」

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限界を超えた力

ノックを終えた川石ナインが三塁ベンチへ下がる。すると、三塁側の投球練習場で幸崎(こうさき)が投げ始めた。そのミット音に、一奥(いちおく)がニヤつく。

 

「仟(かしら)、幸崎(こうさき)って速くねぇか?」

「はい。幸崎(こうさき)さんは、愛知県でも5本の指に入る好投手ですから。ちなみに川石(かわいし)高校の春は、準々決勝で名京(めいきょう)高校に負けています。今日はリベンジですね」

 

「なるほど。でもやっぱり野球は見るよりやりたくなるな。ウズウズするぜ」

「一奥(いちおく)さん!今日はダメです。白城(しらき)さんの為に来たのですから、目的を間違えないで下さい」

 

「わかってるって」

 

そんな一奥(いちおく)と仟(かしら)が横目で白城(しらき)を見ると、白城(しらき)は幸崎(こうさき)のピッチング練習を見ていた。

 

その元気な姿に、白城(しらき)は安堵した顔をしていた。

 

すると、名京(めいきょう)の斜坂(ななさか)がバックネット越しに白城(しらき)へ話しかけてきた。

 

「白城(しらき)さ~ん、ホントに来てくれたんっすね!」

「何いってんだ。お前が来いって言ったんだろ?」

 

「まぁ、そうっすけど。また後で写メ撮らせてくださいね。白城(しらき)さんの記事は評判いいんっすから。あ!隣の彼女はいいけど、一奥(いちおく)はカットで!」

「おい!斜坂(ななさか)!俺をカットするなよ!」

 

「それは無理だわ。ライバルじゃないとつまらないだろ?」

「なにぃ!」

 

立ち上がった一奥(いちおく)のYシャツを、仟(かしら)が掴んた。

 

「一奥(いちおく)さん、勝負はダメです!」

 

仟かかしらはそのまま一奥(いちおく)のYシャツの背中部分を引っ張り、座らせた。

 

「おい!斜坂(ななさか)。試合前だぞ!」

「やべっ、国井(くにい)さんだ。じゃ、ごゆっくり~」

 

斜坂(ななさか)は一塁ベンチへ帰ろうとしたが、途中で止まって言い残した言葉を口にした。

 

「あ、そうだ。一奥(いちおく)。ピッチャーの俺でも、お前の球は楽勝だからな。忘れるなよ」

 

「うるせぇ!打たせるかよ!早く戻れ!」(くっそ……あのコメントはナメもん宛のコメントだぞ?……まぁいいけどさ……)「ん?仟(かしら)、斜坂(ななさか)の言った俺は名京(めいきょう)だから!ってどういう意味だ?」

「そうですね、私もよくわかりません。白城(しらき)さんはわかりますか?」

 

「ああ。ムカつく言い方だが、鍵はキャッチャーでキャプテンの国井(くにい)だ。アイツはな、タイムリミッターと呼ばれている」

「タイムリミッター?」

「そうだ。一奥(いちおく)、こいつは厄介だぜ?」

 

すると、仟(かしら)が「ハッ!」と思い出したように驚いた。

 

「白城(しらき)さん!」

「ん?なんだよ、仟(かしら)」

 

「私、タイムリミッターで思い出しました。名京(めいきょう)の国井(くにい)さんがそうだったのですね……。でも確か、相手の幸崎(こうさき)さんも、リズムリミッターではないか?と言われていますよね?」

 

その言葉に、今度は白城(しらき)が驚いた。

 

「なに!幸崎(こうさき)さんがリズムリミッターだと?それはマジか?」

「はい」

 

「そうか。なら昨日一奥(いちおく)が、簡単に打たれたのがわかるな」

「そうですね……」

 

二人の会話を聞いていた一奥(いちおく)は、頭から煙が出る思いだった。

 

「なぁ……、さっきからタイムだのリズムだの言ってるけど、それはなんなんだよ」

 

すると、白城(しらき)が簡単に説明した。

 

「リミットの名称だ。まぁ、お前が知らねぇのも無理はない。実際本人以外、理解も説明も出来ねぇからな。お前にわかりやすく言えば、あの二人に操り人形にされちまうって事だ」

「なにぃ?なんだよそれ!」

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