教室へ戻ると、朝のミーティングが始まった。担任教師が淡々と話し始めるが、俺は机に伏せていた。ダメだ……やる気が起きねぇ。

 

「えー、今日は君たちが入学して初のランキング発表となった訳だが、すでに目にした者もいるだろう。だが、あまり気にすることはないぞ?」

 

先生、ここでも慰めですか?

 

「卒業までの3年間、そこでゴールドを獲得すればいいのだ!焦らず毎日コツコツと、恋愛偏差値を高めてくれ。以上」

 

朝からお熱いことで。う~ん、卒業までにゴールドねぇ……。確かにそうだけど、それは上位30人の話……。

 

そう思って、俺はブレザーのポケットから生徒手帳を出した。

 

恋愛偏差値は、毎月1回ランキングを発表する。

上位30名をゴールド
31~66位をシルバー
67~99位をブロンズ

以上とする。

 

各色は卒業証書に記され、個人の社会的ステータスとなる。圏外の者に色は記されない。また、最終順位は各色の価値に関わる為、上位3名以外これを記載しない。

 

か……程遠いな……。俺はあくびをしながら伸びをし、手帳をポケットにしまった。

 

同級生の中で、単純に考えてもゴールドは1/3だ。それが全校生徒となると、卒業時は10人いるかいないかかぁ。

 

このクラスで言うと30人ちょいだから、賢人に水乃……って、後一人かよ!あ……花絵もいたな……あはは……そして俺は現在圏外。

 

「はぁ~」

 

それから授業が始まっても、俺の頭は恋愛偏差値の事でいっぱいだった。

 

「で、あるからして……」

 

実際、俺は何位だったんだろうなぁ……まさか300!?……いや、止めよう。これはその為のシステムだ。絶対に100位から上は公表されない。

 

もし今俺が300位だったら、もう学校辞めてるって。よく出来てるよな……ホント。

 

そんな俺が机と抱き合っていると、賢人(けんと)たちの背中や横顔が目に入った。あいつら、真面目に授業聞いてる。まぁ二桁組だからなぁ。

 

思えば3人とも中学からの連れだけど、ここに来たのは俺だけ間違えたかもしれない……。

 

そして午前の授業も終わり、俺たちは教室の隅で、四人でお昼を食べ始めた。俺は考え過ぎて腹が減ったのか、弁当をバクバク食べてしまった。

 

そんな俺を見た水乃(みずの)が「な~んだ、太郎(たろちぃ)元気じゃん!」なんて軽く言ってきたが、腹が減ってはモテねぇんだよ。食いっぷりがいい男が好きな女もいるらしいからな。

 

賢人は御曹子だが、普通の弁当を食べている。これもおそらく恋愛偏差値に関わる行動なのだろう。御曹子なのに庶民的!イヤ~!ってやつだ。羨ましい……。

 

花絵はいつも自分で作るらしい。これは女子力アップだな。大人しい性格上自分では言わないが、友達が水乃では筒抜けなんだけどな。

 

その辺、水乃は全然こだわらない。芸能人は忙しいから食べ物は何でもいいと、いつも言っている。まぁよくわからねぇ奴なんだけど、モテるしいい奴なのは変わりないな。

 

すると、水乃のスマホが鳴った。どうやら声の主はマネージャーのようだ。

 

「あー、水樹ちゃん?今いい?」

 

漏れた声が聞こえる。水樹って?あーそっか芸名か。

 

「大丈夫ですよぉ。うん……はい……」

 

明るく対応する水乃を見ていたその時、俺は盲点に気づいた。

 

「あー!」

 

つい大声を出してしまった。そんな事はどうでもいい!俺は賢人の両腕を掴んだ。

 

「なぁ、賢人!名前って恋愛偏差値に関係ないよな?そうと言ってくれ!」

「そうだな……あるかもな」

「あるのかよ!」

 

俺はの名は太郎。誰もが絶対に読み間違えない名前だ。それだけは超有名。役所に行けば見本に俺の名前がある。

 

そう、ある意味有名だが……。

 

「太郎……太郎ねぇ。」

 

間違いねぇ!インパクトにかけるだろ!これでも小学生の頃は覚えやすし気に入ってた。クラスが変わっても、担任は絶対に間違えなかった。その利点はあるが、今は逆効果。

 

トホホ……正直かっこよくはないな。もし俺の彼女が花子だったら…

「おい太郎?」

 

賢人が呼んでいるが、今の俺は妄想世界にダイブ中……。

 

《太郎ー!》

《おせーぞ、花子》

《ごめんごめん!えへっ》

 

ダメだ……俺には花子の相手ができねぇ。無理だ。って、何考えてんだ?俺は。恋愛偏差値関係ない太郎と花子に謝れ!

 

「なぁ、神来 賢人(じんらいけんと)」

「あ、やっと反応した。それで、どうしたんだよ?改まって」

「いや……」

 

やべぇ!賢人のフルネールとか滅茶苦茶カッコいいじゃん!今まで名前を意識した事なかったからな……。こんな所にも差があったのか。

 

高藤 水乃(こうふじみずの)に鈴木 花絵(すずきかえ)

 

お?そっか、花絵も多い名字だな。

 

「太郎?どうしたの?」

 

思わず見すぎて花絵に突っ込まれた。

「いやいや、なんでも……」

 

なんとか手を振ってごまかした。電話を切った水乃が花絵の後ろから笑って抱きつく。そんな姿を笑う賢人と花絵。こうして三人の話す姿を改めて見ると、俺の周りがおかしくないか?

 

もし花絵が水乃並みの天然頭脳なら、間違いなく水乃に誘われてアイドルの道でセンターを争ってたと思う。

 

賢人は御曹子でなければモデルか?マジで全然イケるからな。1つでいいから俺にくれよ。

 

水乃がモテるのは考えるまでもないし、花絵がモテるのは水乃から聞いてもいないのに聞かされた。花絵の胸は反則だしな。やべっ、鼻下伸びた!

 

っていうかさ……こいつら元々恋愛偏差値高いじゃねーかよ!誰も付き合わないから忘れてたわ!今更……って、俺が俺に突っ込みたい気分。

 

いや、俺だってこれからモテ道を爆進するんだ!……でもその前に、現実を知らないとな……。

 

「なぁ、お前らさ。俺の恋愛偏差値どれくらいだと思う?」

 

突然の問いに、3人は顔を見合わせた。

 

この学園のシステムでは、ランクインした者の恋愛偏差値はわからない。順位が差になっている理由は、恋愛偏差値での差がモチベーションに関わるからだ。

 

極端だが……13位の賢人と22位の水乃の差は、ほとんどないかもしれない。あるいはその逆もあり得るけど。

 

だが!

圏外の俺は、自分の恋愛偏差値を知る事が出来る!それはブロンズぎりぎりの99位が目標になり、およその目安になるのだ……で?どうなんだよ?

 

「えーとね、じゃあ35」

「おい!水乃。それは言い過ぎだろ!マジで立ち直れねーから」

「あはは。じゃあ36で!」

 

笑えねぇ……完全に聞く奴間違えたわ。せめて40とか言ってくれよぉ。友達だろ?

 

「水乃はもういい。花絵はどうなんだ?」

「う~ん47.9かな……」

「うっ……」

 

この重量感……コンマ9って、花絵に言われると説得力がある分へこむわ。でも上がったぞ!よし。

 

「賢人!」

「うん、ズバリ49ジャストだ!」

 

「おおー!マジか!賢人くん!」

 

嬉しさのあまり、俺は立ち上がって賢人に抱きついた。もっと低く言われると思っていたが、意外だったな。……ん?ちょっと待て?49って多分喜ぶ数字じゃねーぞ!

 

俺に無理矢理抱かれた賢人をゆっくり離し、そのままトボトボと教室のドアへ向かった。

 

「50未満……。ちょっと職員室行ってくるわ。お前らの評価が合ってるのか、確かめてくる」

 

教室を出た俺は、駆け足で職員室へ。仲間だからこそ、きっとあいつらはお世辞で恋愛偏差値を言わない。だからキツいんだけど、一緒にいて気持ちはいい。

 

本音の恋愛偏差値50未満か……効いたわ。

 

そして俺は職員室のドアを開けた。座って新聞を読んでいた担任に近づく。先生、間違えて偏差値60とか言わねーかなぁ。このままだと悔しいだけだぜ。

 

「先生!」

「太郎、職員室では静かにしなさい!」

「あ……やべっ、すみません」

 

失敗失敗。落ち着け俺!

 

「そんなに急いでどうしたんだ?」

「あの、偏差値を聞きたくなりまして……」

「お前ランク外か。ちょっと待ってろ」

 

ら、ランク外……この先俺はこの言葉を何回聞くんだろう。えぇーい!ウルサイうるさい!来月こそ、俺も二桁組になるんだ!すでに一桁と言えない弱い自分がいるけど……くそっ。

 

「えーと、佐藤……佐藤……」

 

えっ!?ちょっ!先生?

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見てはいけないもの

その時、俺は偶然先生が姿勢を変えた瞬間、開いた名簿の一部が見えてしまった。

名簿は50音順に並んでいる。

俺が見たのは、サの次がシの賢人の偏差値だった。

 

正直見たくはなかった。すでに俺の頭は自分の偏差値どころではなかったが、サッと先生にメモを渡される。

 

「ほれ」

「あ、ありがとうございます。……失礼しますた」

 

先生からの激励は何もない。これには義理すぎる義理チョコもビックリだろう。無反応も当然だ。この学園で恋愛偏差値の公表に繋がる行為は、絶対に禁止されている。

 

職員室は後にしたが、すぐにメモを見る気にはなれなかった。そのままズボンのポケットにしまい教室へと戻った。

 

賢人に謝ろう!

今はただ、それだけだった……。

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