バッ…

「要(かなめ)!走れー!!」

一奥(いちおく)の声に、空振り三振した要(かなめ)がチラッとキャッチャーの中西(なかにし)を見ると、ボールを後ろへそらしていた。すぐに一塁へ要(かなめ)が走り出したその時だった。

「中西(なかにし)!」

突然マウンドの幸崎(こうさき)が叫んだ。中西(なかにし)は、バックネット際でボールを素手で拾いながら送球体勢に入ったが、マウンドの幸崎(こうさき)が右の掌を前に出している姿に、一塁へ投げるのを辞めてホームへ歩き出した。

要(かなめ)は一塁を駆け抜けた後、すぐにキャッチャーの中西(なかにし)を見た。中西(なかにし)は、歩きながら山なりのボールを幸崎(こうさき)へ返していた。

二番の仟(かしら)が打席に向かう中、中西(なかにし)は「すまん!幸崎(こうさき)。」と、ミットを上げながらマウンドへ叫んだ。

「後一人だ。問題ない。」

幸崎(こうさき)の声に中西(なかにし)は頷き、マスクをつけて座った。

そして、集中した顔の仟(かしら)が左バッターボックスにくのいちクロスの構えで立った。

(狙いは1つ…。)

仟(かしら)がジッとマウンドの幸崎(こうさき)を見つめる中、幸崎(こうさき)は一度首を横に振り、サインは決まった。

セットポジションから、幸崎(こうさき)が初球を投げた。

(やはりフォーク!)

仟(かしら)がスイングに入った。

キン 「ファール。」

仟(かしら)は、音がするほど息を吐いた。

(タイミングが合っていた。今のはダブルリミットのフォーク…。やっぱり幸崎(こうさき)さんは気づいてる。私の考えが正しいなら、次がラストチャンス!)

仟(かしら)が構え、サインに頷いた幸崎(こうさき)が二球目を投げた。

(やはりフォーク!!)

仟(かしら)がスイングに入る。

(タイミングも合ってる!いける!)

ブン 「え…。」

バシッ 「ストライクツー。」

空振りした仟(かしら)は、驚きながらキャッチャーの中西(なかにし)を見た。中西(なかにし)は、ショートバウンドしたフォークをキャッチしていた。

腰にバットを立て掛けた仟(かしら)は、下を向いてヘルメットをかぶり直した。

(ここに来てまだキレが増すなんて…捉えられなかった…。今の私には、二球目までが勝負だったのに。)

仟(かしら)は右手でグリップを握り、左手でヘルメットを叩いた。

(トリプルリミットが来る…それでも諦めない!)

仟(かしら)の必死さが伝わる姿を目にしたマウンドの幸崎(こうさき)は、目を閉じると同時に「ふっ!」と息を吐き、鋭い目つきでサインを見た。

仟(かしら)が構え、中西(なかにし)がミットを前に出し、幸崎(こうさき)がセットポジションから足を上げた瞬間、三人の心は一致した。

(((トリプルリミット!!)))

幸崎(こうさき)が右腕を振った。

(これで終わりだ!!)

しかし、仟(かしら)はまだ動かない。

(タイミングは外されてる。引き付けて一気に…)

仟(かしら)がスイングに入る。

(落ちる…それでも…)

仟(かしら)が捉えたと思った瞬間目にしたのは、バットの下を通る白い線だった。

(さらに落ちた!やられた…。)

ブン… バッ… 「ハッ!」

空振りした瞬間、仟(かしら)はミット音と違う音を耳にし、考えるより先に体が一塁へ走り出した。

またも中西(なかにし)が後ろへそらしたボールを追いかける中、仟(かしら)の予測を上回ったトリプルリミットによるアンダーフォークのさらなる威力に、マウンドの幸崎(こうさき)は唾を飲み込んだ。

(要(いちばん)に投げた球よりキレが増していた。でなければ…やられていた!)

視点が合っていなかった幸崎(こうさき)の目が中西(なかにし)の背中を捉えた瞬間、幸崎(こうさき)は中西(なかにし)に叫んだ。

「投げるな!」

「えっ!?」

一塁へ送球体勢のまま固まった中西(なかにし)がマウンドの幸崎(こうさき)を見ると、その目はネクストの白城(しらき)へ向けられていた。中西(なかにし)が白城(しらき)の姿を捉えると、白城(しらき)はネクストから立ち上がって幸崎(こうさき)を睨みつけていた。

振り逃げで仟(かしら)が一塁を駆け抜けた瞬間、マウンドの幸崎(こうさき)がタイムを要求した。

「タイム!」

幸崎(こうさき)と目が合った中西(なかにし)は、駆け足でマウンドへ向かった。幸崎(こうさき)の前で立ち止まった中西(なかにし)は、頭を下げた。

「すまねぇ、幸崎(こうさき)。だがボールは最高だ!次は必ず止める!!俺は今、お前の球に興奮…」

頭を上げた中西(なかにし)が目にしたのは、微笑みながら震える右手を見つめる幸崎(こうさき)の姿だった。

「幸崎(こうさき)…。」

「中西(なかにし)。お前も興奮しているのか。俺も同じだ。二度も止めて悪かった。」

「いや。投げても間に合わなかったと思う。それに、お前が止めた理由も今ならわかる。」

中西(なかにし)の笑顔に、目が合った幸崎(こうさき)も笑顔で返した。

「中西(なかにし)、俺は…「やりてぇんだろ?最高の球で、あいつと。」

振り向いた中西(なかにし)は、右バッターボックスの外で右手にバットを持ち、歩幅程度足を広げて立ちながらマウンドを睨み続けている、白城(しらき)を見た。

「あぁ!」

ワクワクした気持ちを抑えられない様子で白城(しらき)を見ながら返事をした幸崎(こうさき)のグローブに、中西(なかにし)はボールを置いた。

「おもいっきり来い!死ぬ気で止めてやる!」

幸崎(こうさき)の目を見て強く頷いた中西(なかにし)がホームへ戻ると、微動だにしない白城(しらき)を見つめる幸崎(こうさき)の表情も、勝負師の顔に変わった。

「白城(しらき)。試合前に俺が言った答えを、ここで出すとしよう。」

中西(なかにし)が座り、ようやく白城(しらき)がバッターボックスに入った。

「俺の答えはすでに言ったぜ…」

白城(しらき)は、左手一本で幸崎(こうさき)にバットの先を向けた。

「ぜってぇぶち抜く!!」

白城(しらき)がバットを構えた。そして、幸崎(こうさき)は振りかぶった。

その姿を見た二塁ランナーの要(かなめ)と、一塁ランナーの仟(かしら)が走った。

ゆっくりと左足を上げた幸崎(こうさき)のフォームは、アンダースローではなくオーバースローだった。

ど真ん中のストレートが、中西(なかにし)のミットに突き刺さった。

ズバーン! 「ストライク!」

二人のランナーがそれぞれ塁を進める中、見逃した白城(しらき)は電光掲示板を見た。

(2キロか…。今の球…一年前の152キロと全く同じ姿だった…。粋な計らいだぜ!それに…)

白城(しらき)はバットを下ろし、要(かなめ)と仟(かしら)を見た。

(そんな事をしなくても、双子(あいつら)のアディショナルリミットはすでに発動している…。念には念か…もしくは自らを追い込んだか…面白れぇ!)「要(かなめ)!」

突然怒鳴った白城(しらき)の声に、三塁ランナーの要(かなめ)はあまりの迫力にビクッとした。

「ホームスティールなんて考えるんじゃねぇぞ。」

「はいっ!!」

要(かなめ)はピッと背筋を伸ばして敬礼ポーズをし、白城(しらき)はバットを構えた。

「勝負だ!幸崎(こうさき)!!」

気合い十分の白城(しらき)の姿に、「フッ。」と微笑んだ幸崎(こうさき)が振りかぶった。

(お前にこの球が…)

幸崎(こうさき)の右腕が地をはった。

(打てるものかぁ!!) ビシュ!

「うおぉぉぉ!!」 ブン!

ガッ… 「ストライクツー。」

「へへっ。」

トリプルリミットのアンダーフォークに、白城(しらき)のバットは空を切った。そしてキャッチャーの中西(なかにし)は、地面に跳ね返ったボールをマスクに当ててボールを前へと止めた。目の前に転がったボールを見た中西(なかにし)は、ボールを拾うよりも先にバッターの白城(しらき)をニヤリと見た。

「いらねぇ心配だったな。白城(しらき)。」

「くっ…。」

白城(しらき)が悔しがる中、中西(なかにし)はボールを素手で拾って返球した。

追い込まれ、打席を外した白城(しらき)は、球審にタイムを要求した。

「タイム!」

そして、白城(しらき)が二塁ランナーの仟(かしら)を見た。目が合った仟(かしら)は、ベース上で首をかしげた。

「仟(かしら)!ちょっと来い!」

「え?あ、はい。」

白城(しらき)はネクストへロジンをつけに歩き出すと、呼ばれた仟(かしら)は方向を変えて白城(しらき)を追った。ネクストの杉浦(すぎうら)からロジンを受け取った白城(しらき)がグリップと手に粉を付ける中、仟(かしら)が到着した。

「どうしたのですか?」

ロジンを杉浦(すぎうら)に渡した白城(しらき)は、自分のかぶるヘルメットを取った。

「一発殴れ!」

「えー!?そんな事できま…「いいから殴れ!!時間がねぇんだよ。」

怒鳴られた仟(かしら)は下を向いたが、困った顔のまま上目で白城(しらき)を見た。

「本当にやるんですか?」

「当たり前だ!」

白城(しらき)は中腰で仟(かしら)に近づいた。

「…わかりました。」

仟(かしら)は右手を開いて後ろに引いた。

「行きますよ…。」

「あぁ。」

パチン!

「ぃてっ…。」

白城(しらき)の左頬に仟(かしら)のビンタが入り、白城(しらき)は顔をしかめながらヘルメットをかぶった。

「よし!行くぜ!!仟(かしら)。」

「はい!」

二人はそれぞれの位置へ走って戻り、白城(しらき)はキャッチャーの中西(なかにし)に話しかけられた。

「いい顔になったな!」

「相手が相手なんでね…。」

白城(しらき)がバットを構え、球審のプレイがかかった。そして、幸崎(こうさき)が振りかぶった。

(何をしたかはわからないが、トリプルリミットと並んでいる…。だがこれはお前を凌駕する…)

ビシュ (サイドスプリットだ!)

幸崎(こうさき)の右腕が、この試合初めてサイドから振られた。だが白城(しらき)は、無心でバットを振り抜いた。

「うおぉぉぉ!!」

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