あの日の真実

 

試合後、西島(せいとう)メンバーを乗せたバスは夕陽を浴びながら母校の駐車場へ到着した。

バスからメンバーたちが降りると、その場で紀香(のりか)監督を中心に半円に並ぶ。

「今日はいい試合だったわ。明日はいよいよ決勝……相手は名京(めいきょう)高校。これ以上ない舞台だわ。それでもいつも通り、思う存分楽しみなさい!いいわね?」

『はい』

「では、解散」

紀香(のりか)監督は校舎内へ行き出し、メンバーたちは部室へと向かった。

一年生四人が道具をバスから降ろしていると、白城(しらき)は追いかけてきた記者たちに囲まれていた。

「白城(しらき)君、明日の予告は何かないかな?」
「13年ぶりの決勝だけど、意気込みを一言お願い」
「名京の竹橋君はストレート宣言していたけど、それについても何か一言」

「勘弁して下さいよ。相手は名京(めいきょう)っすよ?勝ちに行くだけで精一杯だし」

白城(しらき)はめんどくさそうに頭を下げながら髪をかくと、記者たちの目がバスから降りてきた一奥(いちおく)に止まった。

「斉藤君!一言いいかな?」
「さっきの続きなんだけど、明日は本当にストレート勝負なの?」
「さすがに名京(めいきょう)相手にそれはないよね?勝てば甲子園なんだし」

煽る記者たちを目に、一奥(いちおく)は何も言わず平常心のまま遠矢(とうや)と部室へ歩いて行った。その姿を不思議に思った白城(しらき)は、横目で見ながら微笑んでいた。

(もう集中してるのか?それも当然か……)

すると、白城は最後に降りてきた仟(かしら)と目が合う。

「白城(しらき)さん、部室に行かないんですか?」

「お前らを待ってたんだよ。では、みなさん。そういう事なんで」

「ああ!」
「ちょっと待ってよ!」
「白城君、何でもいいから一言ぉ!」

白城(しらき)はバットケースを肩にかけると、記者たちの声に右手を上げながら仟(かしら)・要(かなめ)と部室へ歩いて行った。

歩く三人に会話はない。その目は、真っ直ぐ一奥(いちおく)の背中を見ていた。

着替えを終えたメンバーたちが帰る中、一奥はボールを左手でクルクル回しながらトーナメント表を見ていた。遠矢(とうや)はミットの手入れをし、仟(かしら)は静かに赤マジックでトーナメント表の線を伸ばす。要(かなめ)はロッカーに寄りかかりながらそれを目にし、白城(しらき)も座りながら握ったバットを見つめていた。

決勝はすでに始まっている。

そう言わんばかりの雰囲気の部室へ、帰ったと思われたキャプテンの神山(かみやま)が戻ってきた。神山(かみやま)は五人を目にしたが、静かに白城(しらき)の横へ無言で座ってトーナメント表を見る。

何も言わない神山(かみやま)に、バットを長椅子に立て掛けた白城(しらき)が話し始めた。

「神山さん。何かあったんすか?」

横目でチラッと白城(しらき)を見た神山(かみやま)は、視線をトーナメント表へ戻しながら「フッ」と笑った。

「お前らと同じだ。何も考えていないさ。決勝はリミッツスタジアム。相手は名京(めいきょう)。それだけだろ?」

神山(かみやま)の笑顔を見た白城(しらき)もつられて微笑むと、白城は着替えを始めた。

すると、立ち上がった神山(かみやま)が一年生四人に声をかける。

「グラウンド、見に行くぞ」

四人は微笑むと、そのまま神山(かみやま)についてグラウンドへ向かった。

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確かめる思い

神山(かみやま)がレフトフェンス際で足を止めると、五人は眩しい程の夕焼けに照らされた。

そして、神山(かみやま)はグラウンドを見つめたまま思い出すように語り始めた。

「セレクションが行われたあの日、俺たちは木村監督から来期の女性監督就任と三年間での廃部を知らされた。その時俺は、おもわずグラウンドを立ち去った。認めたくなくてな」

四人は黙ったまま、Yシャツ姿の神山(かみやま)の背中を見ていた。

「だが、帰る事はできなかった。俺は木陰から、ずっとセレクションを見ていたんだ。恥ずかしい……話だな」

神山(かみやま)は、後ろ髪をさすっていた。

「初めは何も期待していなかった。だが、お前らと楽しそうに野球をするアイツらの姿を見た俺は、今にも飛び出しそうな気持ちになっていた。そして、やる気を感じなかった紀香(のりか)監督の変化に、今思えば気づいていたんだ」

神山(かみやま)が四人に振り返る。

「紀香(のりか)監督は……」

その時、言いかけた神山(かみやま)の目が着替えを終えてグラウンドへ近づく白城(しらき)を捉える。口を閉じた神山(かみやま)の目線に気づいた四人が振り向くと、白城(しらき)は四人の横で立ち止まった。

「神山(かみやま)さん。部室に戻って来たから変だと思ってましたが、姉貴と話したんすね?」

「白城(しらき)……あぁ」

白城(しらき)は神山(かみやま)の下へ歩き出し、グラウンドを見つめながら横で止まった。

「明日負けて、廃部にはさせないすっよ。俺も……姉貴の選んだこいつらも」

神山(かみやま)は振り返り、白城(しらき)に視線を合わせた。

「そうだな。俺たちはここまで来たんだ。明日勝って、西島(せいとう)高校は甲子園へ行く。そしてその先にある栄光を手土産に、俺たち三年はこのグラウンドをお前らに託したい」

神山(かみやま)と白城(しらき)が微笑み合う中、二人の姿を見ている四人も微笑み合った。再び振り返った神山(かみやま)が部室へと歩き出し、一奥(いちおく)とのすれ違い様に右手を左肩へそっと置いた。

「明日も頼んだぞ!エース」

一奥(いちおく)は微笑み、四人も二人の後についてその場を後にした。

二つの選択

一方、神山(かみやま)の謝罪を笑顔で流していた紀香(のりか)監督は、着替えを終えて理事長室に来ていた。ドアをノックして扉を引き、中へ入ると父である西島(にしじま)理事長が椅子に座っていた。

紀香(のりか)監督がドアを閉めて理事長の前に立ち止まると、西島(にしじま)理事長は「いよいよか」と両肘を立てて手を組んだ。

「えぇ、お父様」

「お前が秋に選んだのは、私が言った九人ではなく四人だった。それがお前の答えだったな」

「はい。ですが、今はそれが父の答えだと思っています」

「そうか……」

西島(にしじま)理事長は、嬉しそうに頷きながら立ち上がる。紀香(のりか)監督に背を向け、両手を後ろへ回して腰の位置で組むと、木村(きむら)前監督の前任監督であり、初代理事長でもある父の写真が入った額縁を見上げた。

「隔世遺伝………か」

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