連続三振の奪い合い

 二回の裏。

 名京(めいきょう)高校八番からの攻撃。バッターが打席に入ると、マウンドの一奥(いちおく)はニヤリと微笑んだ。

「遠矢(とうや)!」

 ノーサインの一奥が振りかぶる。

「とりあえずこっちも……六連続三振行くぜ!」

「ストライク」

「ナイスボール!一奥」

 空振りを取られ一奥を睨むバッターを横目に、キャッチャーの遠矢は涼しい顔でリズムよく返球した。

 その姿に、セカンドの仟が再び首をかしげる。

(あれは普段の遠矢さんだ……やっぱり、私の気のせいだったのかもしれない?ウフフッ。それにしても……)

 仟は西島(せいとう)ナインを見渡した。

(一奥さんのストレートを見て、仲間の皆さんが打ちたそうにウズウズしてる)

 微笑んだ仟は、武者震いする自分の右手に気づく。そのままグローブにパシンと叩きつけ、二球目を振りかぶる一奥を見て構えた。

(私も、今の一奥さんの球を打ってみたい!タイムリミットさえも抑える、このものすごいストレートを!)

 仟のワクワクする目が、バッターの二度目の空振りを捉えた。

「ストライクツー」

 再び仟が微笑む中、名京ベンチに座る国井も微笑んでいた。

(160キロ台連発……。伝説と呼ばれる諸刃のリミット、ノーリミッターか。その実力、じっくりと楽しませてもらう)

「ストライクバッターアウト!」

 八番バッターの三振を目にした国井がキャッチャーの遠矢を見ると、遠矢はマスク越しに偶然国井と目が合った。

(負けませんよ!国井さん。これで僕らも四連続奪三振だ!)

 続く九番バッターも空振り三振。バッターが一番に入れ代わり、藤井(ふじい)監督はサインを送った。そのサインを目にしたベンチの国井は、無表情のままグラウンドへ目を移す。

(セーフティバント?見物だな、無限バッテリー)

 一奥が力強く右足を踏み出した瞬間、バッターがバントの構えを見せた。だが、一奥は構わずど真ん中へ腕を振る。

(バント?そんな流れじゃねぇんだよ!)

「ストライク」

「くっ」

 空振りしたバッターが藤井監督を見ると、ここでセーフティのサインが取り消された。それを見たベンチの国井は立ち上がり、マウンドを見つめたままの藤井監督へ話しかけた。

「かなり伸びてますね。あのストレート」

「そのようだ。国井、バントは無駄な探りだったか?」

「いえ。俺はただ、今のところあいつが攻撃のタイムリミットを超えているのが嬉しいだけですよ」

「フッ、そうか……」

 藤井監督は、微笑みながら目を閉じた。

「お前がいる限り、今の名京野球に死角はない。その相手が無限バッテリーでもだ。この試合も任せたぞ」

 国井が「はい」と頷いた瞬間、一番バッターが空振り。

「ストライクバッターアウト!チェンジ」

「よっしゃぁ!」

 一奥は、マウンドから一塁側でキャッチボールを止めた竹橋(たけはし)を指差した。

「これで俺たちも六連続だ!あんたに並んだぜ!」

 返球を受けた一奥は、マウンドへ不気味に歩いてくる竹橋へボールを投げ込んだ。

「ケッ!」

 面白くなさそうにキャッチして一奥から目を逸らす竹橋。一奥は、微笑みながらベンチへ下がった。

 そして、そんな一奥を見ながらキャッチャーの国井もホームへと歩き出す。

(お前の連続奪三振は八で止まる……。破の殻を破った超に近いネオクライシスと、タイムのダブルリミットの俺でな……その後は……)

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様々な異変

 すると、ホームへ着いた国井が一塁ベンチの斜坂(ななさか)へ叫んだ。

「斜坂!そんなに指が暇ならキャッチボールを始めておけ!」

「ハッ!……え?国井さん、マジっすか?」

 ベンチで鼻をほじっていた斜坂が驚くと、斜坂と国井はマウンドの竹橋へ目線を移した。

 すると、下を向いた竹橋の全身は震えていた。その顔がホームに座った国井を捉えると、いきなり鋭い目つきでストレートをミットに投げ込む。

 すでに野生とも思えるボールを捕った左手に伝わる痛みに、国井は小さく頷いて返球。その様子に、国井の指示でキャッチボールを始めた斜坂もニヤリと微笑んだ。

(さすがタイムリミッターの国井さん。この回は一番の要(かなめ)ちゃんからだし、流れを完璧に読んでる。それにしても、こんなに楽しそうな国井さんは初めて見るなぁ。竹橋さんを飛ばさせてるし、あの様子じゃマジで俺の出番は近そうだ!)

 パーン!

「いってぇ。おい斜坂!力いれるなら先に言えよ!」

「あ!すんません、つい。アハハ」

 国井が横目でブルペンの斜坂の様子を伺う中、一番の要が笑顔で打席に入った。

 三回の表。

 西島(せいとう)高校の攻撃が始まった。要は、初球からくのいちクロスの構えで対抗。

「プレイ!」

 球審の右手が上がり、国井がミットを真ん中に構えた。ピッチャー竹橋が放つ地をはうような初球、要は積極的に打ちに行ったが、眉を上げてバットを止めた。

「ストライク」

 国井が不敵に微笑む中、要は初球を思い出すように口をすぼめてレフト上空を見た。

(あれ?外の高め?)

 二球目、またも要は見送る。

(また外の高めだ!浮きながら曲がってるのかな?)

 その時、ネクストに座る仟は厳しい表情でグラウンドを見つめていた。

(やっぱりそうだ!この回から竹橋さんのボールは、浮きながらシュートしてる。竹橋さんの更なる進化……?でも、飛ばしてきた疲れからくる失投にも見える……)

 そして三球目、打ちにいった要の姿に、仟の顔が「ハッ!」と危機を表す。

(要!)

「ストライクバッターアウト!」

 空振りして戻ってきた要は、近づいてきた仟の前で立ち止まった。

「えへへ、ごめん。やられちゃった」

「最後、無意識だと思うけど上体が伸びてたよ。だから、全然スイングさせてもらえなかったね」

「そっかぁ。浮いてくるから、つい背伸びして合わせちゃったのかぁ。じゃ、仟に任せた」

「うん。行ってくる」

 二人はすれ違うと、要はベンチ前で一奥に「七連続になっちゃった」と舌を出し、一奥は「気にすんな」と笑顔で返した。そして、バッターボックスへくのいちクロスで構えた仟に声をかける。

「いけ~!お前なら打てるぞ仟~!」

 仟は三塁ベンチからの一奥の声に頷くと、厳しい表情でマウンドを見て構えた。

(要に投げたフォーシームは、シュートしながら浮いてきた。要は上から叩こうとして上体が伸びたから……)

 竹橋が初球を投げる。仟も同じく、初球から打つ気でスイングに入った。

(変化の予測は出来ない。だったら……)

 パーン「ストライク」

 その時、仟の空振りを見たキャッチャー国井が眉間にシワを寄せた。

(こいつは……いや、まさかな……)

予感

 二球目。仟は同じく空振りしたが、ここまでノーサインだった国井の右指は動いていた。三球目、追い込まれた仟に出来る事はただ1つだった。

(私も限界を超えるしかない!)

 しかし、竹橋の気迫に押された仟は、思わずのけぞって手が出なかった。

「ストライクバッターアウト!」

(最後はインコース……)

 そのまま仟はバッターボックスを後にする。

(今のも失投なのかわからない。真ん中低めから、襲いかかるように浮いてきた……)

 落ち込んで歩く仟を、ネクストの白城(しらき)が迎える。

「お前ら、連続ホームランの後は連続三振かよ」

「白城さん……すみません、外にヤマを張るしか出来なかったので」

「だろうな。じゃなきゃお前が見逃す訳ねぇ。それに、竹橋のストレートは二種類あるみてぇだな。三球目はおそらくサインだぞ」

「え?サインですか?私は逆球かと……」

「いや、国井に一杯食わされたんだ。三球目が外なら、アウトでも三振にはならない。お前に打つ雰囲気があったからだが、竹橋はともかく国井は冷静だ」

「それでも結果は三振です。これで八連続……え?白城さん?」

 すると、白城は仟のバットを手に取った。

「これ、ちょっと借りるぜ」

「でも、白城さんには軽すぎますよ?いいのですか?」

 白城は、右手でバットを担いでバッターボックスへ歩いていった。

「まぁ見とけって。あいつらが狙っている、九連続はやらせねぇ」

 仟はベンチへ下がり、三番の白城が打席に立つ。無言で構えた白城に、キャッチャーの国井が目を向ける。

(やけに静かだな、西島白城。お前もダブルリミットだ。今の竹橋の実力を試すには、絶好の相手だが……)

 白城は、マウンドの竹橋をジッと見つめて集中しながら構える。そして竹橋が振りかぶった。

「ファール」

「くそっ」

 白城が悔しがる中、国井は返球しながらニヤリと微笑んだ。

(なるほど。バットを軽くしてスイングスピードを上げたのか)

 二球目、今度はインコースのストレートがファール。再び捉えられなかった白城は悔しがり、国井は無表情で返球した。

(こいつの策は間違いではない。ここで竹橋に九連続三振を食らえば、チームの士気は下がるだろう。だが……)

 竹橋が三球目を投げた。白城もスイングに入る。

(きたぜ!やはり真ん中のフォーシーム!もらっ……)

「ボール」

 手を出しかけた白城のバットはギリギリで止まり、国井はボールをワンバウンドでキャッチした。

 白城は、「フン……」と鼻息を出す。

(あぶねぇ。スプリットが初めて落ちやがった。回転がある分、フォークよりもたちが悪いな)

 そして、返球した国井が白城に呟いた。

「お前には失望した。次で三振、終わりにする」

「ああ?」

 構えたたまま白城が振り向くと、次の瞬間国井の言葉に耳を疑った。

「予告してやる。勝負球は、ど真ん中のストレートだ」

(なにぃ!?)

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