ネオとレイの過去

「あの日のネオは、懲りずに誰もいない駅前で夜遅くまで歌っていた。俺は演奏中のネオに声かけたが、アイツは無視してな。あげくには、あっちへ行けだと言いわれたんだ」

 レイは懐かしむように言った。レイに対するネオの反応は、私の時と同じ……。

「変な奴だと聞いてはいたが、ムカついてさ、目の前であぐらかいてやったんだ。するとアイツは、俺に背中向けて歌い出し始めたんだ。笑えるだろ?」

「へぇ~それでそれで?」

 イタズラ顔でサナが割り込む。サナも、ネオとレイの話を知らないんだ……。

「そうか、お前に言ってなかったな。それから俺は……」

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sideレイ

 今から約三ヶ月前、暖かくなり始めた春先の話だ……。

 なんだこいつ。客に背を向けて歌うのか?何を考えて……?なんだ?この感覚は……。

 突然 、ネオの背中に不思議な感覚を覚えた。いてもたってもいられなくなった俺は、気づくと鞄からスティックを出しリズムを取り出す。体が勝手に動く……いや、動かしたくなるんだ。

 ここはライブ会場?大観衆が見える……俺はコイツの後ろで、ドラムを叩きたかったのか?

 そのまま一曲が終わるまで、俺は夢中でリズムを刻んだ。変な奴が毎晩路上ライブをやっているとは聞いたが、これが孤高のアコギストと噂だったコイツの見ていた世界……実現したい……。

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sideナオ

「いい話~」「うん」

 私たちの返事に、レイは照れ隠しのように「フッ」と笑った。サナやみんながレイに惹かれる理由が、少しわかった気がする。

「それでさ、どうしてネオは家族って言葉に反応したの?」

「サナ、今日は食いつくな。ああ……そうだな、ネオは家族って言葉に反応した。あの後アイツは………」

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sideレイ

 ……最高の、気分だったな……。

 満足げに立ち上がった俺はスティックをしまい、少しうつむくネオの背中越しに問いただした。

「これが、孤高のアコギストと呼ばれるお前の見ていた景色か?」

「……」

 黙ったままか……。

「なにか言え……って……」

 ネオはそのまま、次の曲を弾き始める。お前……まだ歌うのかよ?

 呆れた俺は、振り返って歩き出す。

「俺は帰るからな!……また来るよ……」

 そう言った俺の目に、わずかだがネオの頭が返事をしたように動く。わずかな時間だが、少しはコイツと通じ会えたのかもしれない。

 嬉しくなった俺は、気づくとその場でネオの歌を聞き始めていた。だが、すぐに異変に気づく。ガラガラ声になりつつあるネオの歌を止めたくなり、俺は背中を向けるネオの肩を掴みに戻った。

「お前、理由はわからないが今日はもう止めろ!大事な喉を潰すぞ。時間も深夜だし、家族は心配しないのか?」

「いない……」

「いないって……お前……」

 思わず左手で頭を抱えてしまった。やっと口を開いたかと思えばこれかよ。参ったな……。

「そうだ!お前バンド組むつもりはないか?」

「……」

 何を言ってるんだ?俺は……。そう思ったが、俺の心はすでに決まっていたようだ。俺はそっとネオの肩から手を降ろす。そしてズボンのポケットから取り出したタバコに火をつけた。

「お前の参加は自由でいい。固定のメンバーがいないなら、バンドを気楽にやれるだろ?」

 すると、ネオはため息をついた。そしてしばらくして、小さく「いいよ」と呟いた。意外な答えだった。

「そうか。なら連絡先を教えてくれ」

 振り向いたネオは相変わらずの態度だが、ポケットからスマホを取り出した。連絡先を交換し、俺は再び帰路につく。

 なぜコイツがOKしたのか、よくわからないがな……。

「また連絡する。今日はこれで帰れよ!」

「……」

 振り向いた俺が目にしたのは、ハードーケースにアコギをしまうネオの姿だった……。

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sideナオ

「それから俺は、あの時組んでいたバンドを解散した。形を自由参加に変える約束だったからな。そしてバンド名を考えたが、ネオに名前を聞くのを忘れちまってな」

「まさか!?それでバント名がno nameになったの?ちょー適当じゃん!」

 レイは微笑み、サナは驚きながら立ち上がった。

「あぁ。いい名前が浮かばねぇし、俺のスマホに登録したアイツの名前がno nameだ。ようやく名乗ったのは一ヶ月後だったが……サナ、変えた方がいいか?」

「ううん、no nameでいいよ。なんとなく謎めいてて、カッコいいしね」

 サナの明るい態度に、レイは「フッ」と微笑み返した。

「俺はさ、ネオにとってno nameが家族みたいな感じになってくれればいいと思っている。だが、それは俺一人では無理だ。お前らを強引に誘ったが、重く感じなくていいからな」

 少ししんみりとした空気になったけど、みんなは笑顔でレイの言葉に寄り添ったように見えた。私も小さく、「うん」と密かに頷いた。

「そうだそうだ!ナオ。お前はこの店の看板娘だからな?」

「あ」

 そっか。no nameの一員として今の私にできる事は、ヒロムのお店を手伝うことって意味?

「ねぇナオ?ほんとにヒロムの店でバイトするの?」

 肘をたてたサナは、私を止めたい様子。でも……。

「大丈夫だよ。私やりたいことないし、no nameの一人って言われて嬉しく思えた。だからここでバイトする」

 よくわからないけど、何かやらなきゃいけない気がした。思わず立ち上がった私は、そのまま拳を握りしめていた。

「じゃあナオ、この写真にキスマークを付けてくれ!壁に貼るからさ」

「えぇー!」

 それ私の写メ……ヒロムいつのまに……。

「調子乗りすぎ!no nameの前にナオは私の親友なんだからダメ!」

「冗談だよ、サナ」

 ヒロムはカウンターの先にあるロッカーへ、肩を落として歩いて行った。

 助かった……ありがとうサナ。なんか雰囲気でバイトをやるって言っちゃったけど、私本当に大丈夫かな……心配になってきた……。

「ということでナオ、明日から頼むな!」

「え?明日から?……うん、わかった」

 でも頑張ってみよう。そしたらなにか変わるかもしれな……。

 その時、私は目を疑った。ヒロムが手に持っていた制服に……。

「お?」

 ヒロム……それってまさか……。

「どうした?ナオ。これがウチの制服だぞ?」

「すみません、やっぱり無理です……」

 どうしてこの居酒屋の店員がメイド服なの?

「あれ?俺なんかしたか?」

「当たり前でしょ!ねじりハチマキで腹巻きまでしてるおっさんとメイド服の店員って、どんな居酒屋なのよ!」

「待てサナ、お前には夢がないのか?これは男のロマンってやつだぞ?」

「私は女だし!そんなロマンはこのボロい店と一緒に潰れちゃえ!」

「そんなぁ……」

『ダハハ!』

 サナの叫びにみんなが笑う中、ヒロムは再びトボトボとカウンターの奥へメイド服を置きに行った。

 ヒロムごめんなさい……それは着れないけど、バイトは頑張るからね……

孤高のギタリスト

 それから一時間程みんなと騒ぎ、楽しい時間を過ごして解散になった。私とサナは帰ることにしたけど、ヒロムは店を閉めて四人で飲むと言っていた。

「じゃあねーみんなー!」

「おう、またなー!ナオは明日待ってるからな!」

「うん」

 ヒロムに頭を下げ、みんなに手を振ってサナと居酒屋burstを出た。そのまま二人で、駅前に止めた自転車乗り場を目指す。

「サナ」

「ん?どうした?」

「ううん、今日はありがとう」

「なによそれ」

 サナは照れてるようだった。それでも楽しい一日が過ごせたのはサナのおかげ。結果的に変な方向へ行ってしまったけど、なんでもやってみないとわからない。とりあえず、明日からburstでバイトかぁ……。

 サナと歩いて駅前に近づいたその時、静まり帰った夜の町に響くギターの音に立ち止まった。

「サナ?これって……」

「ネオだよ」

 驚いた私とは違い、サナは冷静だった。駅に近づくにつれ、その音は大きくなる。ライブハウスreadyのある通りまで来ると、その音とネオの姿がハッキリと見えた。

 私は立ち止まると、サナは「孤高のアコギストかぁ……」と、鼻から息を漏らした。

「そうだね……」

 ネオはno nameとしてreadyの舞台に立っているのに、どうしてまだ路上ライブを続けるのかわからない。

「私は見慣れてるけどさ、ネオもライブがあった日くらい休めばいいのに」

「え?ネオってno nameに入ってからでも毎日路上ライブをしてるの?」

「そうだよ。これは変わらないみたいだね」

 どうして……?

 ジッとネオを見つめる私に、サナは笑顔で腕を肩に回した。

「帰ろっか?ナオ。ネオのあの状態は、ただの危険人物だし」

「だね」

 ネオの歌声が響く中、自転車に乗った私はサナに手を振って別れた。帰り際、自転車をこぎながらネオを遠目に見る。やっぱり、no nameのネオとは別人に映ってしまった。

 家族……か……。

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